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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4265号 判決 1965年10月18日

原告 小田専一

被告 杉田安太郎 外一名

主文

被告杉田安太郎は原告に対し別紙物件目録<省略>記載の自動車、その鍵および自動車検査証を引渡せ。

被告杉田安太郎、同河野貞治は原告に対し連帯して金一〇〇、〇〇〇円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

この判決は第一、二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項と同旨ならびに「被告らは原告に対し連帯して昭和三九年一一月一一日以降右自動車等の引渡済みに至るまで一カ月五〇、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は別紙物件目録記載の自動車、その鍵および自動車検査証(以下「本件自動車」という)の所有者であるが、被告杉田は権原なく本件自動車を占有しているので所有権に基づきその引渡を求める。

二、被告両名は共謀の上、昭和三九年一一月上旬頃被告河野において原告に対し、真実その意思がないのに、よい買主を紹介してやるからといつて原告をその旨誤信させ、その頃原告から本件自動車の交付を受け、以後原告の使用を不可能にした。これは被告らの不法行為であるから被告らは連帯して原告の受けた損害を賠償すべきところ、本件自動車を月決めで賃貸した場合の使用料は金五〇、〇〇〇円であるから、原告は被告らに対し昭和三九年一一月一一日以降引渡済みに至るまで一カ月金五〇、〇〇〇円の割合による損害金(得べかりし利益)の支払を請求するものである。

被告杉田は請求棄却の判決を求めたが、なんら防禦方法を提出しない。被告河野は本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

民事訴訟法一四〇条一項ないし同条三項により、被告らは請求原因事実を自白したものとみなす。

原告は本件自動車の月決めで他に賃貸した場合の使用料が五〇、〇〇〇円であると主張し、これを前提として、被告らの不法行為により原告は昭和三九年一一月一一日以降本件自動車の引渡済みまで一カ月五〇、〇〇〇円相当の得べかりし利益を喪失したと主張する。しかし、一般にこの種の「得べかりし利益」の喪失による損害額の算定は、一定の事実関係に経験則を適用して損害を金銭的に評価する操作を必要とする点で通常の具体的事実の確定とは性格を異にするものであるから、その算定にあたり直接依拠すべき具体的な名義額(例えば負傷者が事故前に得ていた給料額、当該賃貸借終了前の賃料額)が存在する場合は格別、具体的な手がかりのない本件のような事案においては、原告主張の損害額それ自体についての自白、ことに擬制自白は裁判所を拘束しないと解するのが相当である。特に当事者の主張する損害算定の基礎・方法に疑問が存する場合には、裁判所はかかる主張にとらわれることなく、適正に損害を評価する権限を有するものと解する。

これを本件についてみるに、自動車の使用不能による損害の算定にあたり、土地、家屋の場合のように当然に賃料相当額の損害をこうむつたと解すること自体が疑問であるばかりでなく、昭和三九年一一月以降の時期において本件自動車と同種の自動車(一九六二年型ヒルマンミンクス)の賃貸により一カ月五〇、〇〇〇円もの収益をあげることのできないことは公知の事実であるから、本件自動車について特段の事情が何も主張されていない以上、原告主張の損害額はその前提においても疑問があつて採用できない。

そこで証拠により損害の有無、数額を認定すべきところ、原告本人尋問の結果によれば、いわゆるドライブクラブにおける本件自動車と同種の自動車の賃貸料は現在でも一日一、〇〇〇円を下らない(従つて一カ月間毎日賃貸したとすれば約三〇、〇〇〇円となる)ことがうかがわれるけれども、原告自身は未だかつて自動車を他人に賃貸したことはなく、その意思もなかつたことは原告本人の供述によつて明らかであるから、ドライブクラブの賃貸料金をもつて本件における損害額算定の基礎とすることは失当である。しかし同じく原告本人尋問の結果によると、本件自動車の交換価格は、被告らがこれを詐取した昭和三九年一一月上旬から本判決時までの約一年間にすくなくとも一〇〇、〇〇〇円の減少を来していること、自動車の売買を業とする原告は被告らの共同不法行為によりすくなくとも右金額に相当する損害をこうむつたことが認められるから、被告らはこれを原告に賠償すべき義務がある。なお弁論の全趣旨によれば本件自動車は原告の得た保全処分命令により執行吏保管中のものであり、原告は本判決の執行によつて確実にその引渡を受け得べきことが推認されるから、今後さらに現実の引渡あるまでの価格の減少については顧慮しない。

原告の請求は被告杉田に対し本件自動車の引渡を、被告らに対し連帯して右金一〇〇、〇〇〇円の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 楠本安雄)

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